体内バーチャルエージェントによるユーザの感情変化の調査
1. 背景・目的
社会の中で多くのコンパニオンエージェントが開発されている。これらのエージェントは、動物や人間の姿で人々に寄り添い、話し相手になることによって、人間の不安感、孤独感などを、物理的、心理的に和らげることに寄与している。
心理学研究において、物理的距離と心理的距離は密接に関連しており、孤独を和らげるためには、物理的な距離も重要であることが知られている。このことから、近年では、肩乗りロボットなどに代表されるようなウェアラブルなコンパニオンエージェントの開発が進められている。
しかしながら、これらのエージェントは物理的なものであり、ユーザの体外に存在しているため、寄り添う距離としてはユーザの身体に触れることが限度である。そこで、体内にバーチャルエージェントを配置することにより、ユーザにさらに寄り添ったサポートをする研究が進められている。
本研究では、体内エージェントを実現するデバイスを用いて、体内エージェントの感情変化によって、ユーザに感情の変化を与えることを目的とする。
2. 手法
研究では、まずデバイスの改善として、既存の4chスピーカを8chに増加させ、体内感の変化を調査する。また、3種類の体内バーチャルエージェントが喜怒哀楽を表現する音声を作成し、それによるユーザの感情の変化に関するアンケート調査を行う。
3. 実験
今回の研究では、2つのテーマに分けて実験を行う。
3.1 実験1:スピーカの増加による移動感覚の変化の検証
体内エージェントは、音像位置推定精度を向上させるため、音声パンニングという技術を用いてエージェントを体内で移動させている。この体内移動感が、4chのスピーカを8chに増加させたときに変化するのかを調査する。
3.2 実験2:エージェントの感情変化が与えるユーザへの影響の検証
人間は、他人の感情や発言に自分の感情が影響されることが知られている。また、このことは自分の声においても同様であるという研究もなされている。
そこで、自分と同一化した音声の感情にも影響されるのか、また、影響の大きさはエージェントの種類によって異なるのかを3種類のエージェントの音声を用いて調査する。
4. 結果
実験1の結果は以下のようになった。
Q1. スピーカの増加により、エージェントの移動感は変化したか?

過半数の人が「どちらかといえば大きくなった(4)」と回答したことから、スピーカの増加により移動感は向上するという結果が得られた。
実験2の結果は以下のようになった。
Q2. エージェントの感情表現により、あなたの感情に変化はあったか?

あまりポジティブな感情の変化はなく、怒りや悲しみといったネガティブな感情の変化を強く感じたというコメントや、音声のテンポや抑揚の違いによっても印象に変化を与えたというコメントがあった。
Q3. 3つの音声で、どれがよりあなたの感情を変化させたか?(複数回答可)

少女の声が最も感情を変化させるという結果となった。
5. 考察
Q2より、音声の違いによってユーザの感情変化の度合いに差があったことから、聞こえる声によっても違いがあることが考えられる。
また、男性の声よりも少女の声においてポジティブな影響を与えたという結果から、エージェントとしては女性の音声のほうが適していると考えられる。
Q3より、それぞれの音声で少なからず感情に変化を及ぼしたことから、体内エージェントの感情表現は、ユーザの感情の変化に影響すると考えられる。
6. まとめ・感想
本研究では、3種類の体内エージェントの感情表現がユーザへ与える感情の変化と、各エージェントにおける印象の違いについて調査した。今後は、デバイスの改善や体内エージェントの移動範囲を広げることなどを目的として研究を進めていく。
FTMPを通して、自分だけで研究を進めるのではなく、様々な人の話を聞くことの重要性を知ることができた。この経験を生かして、今後も研究に励んでいきたい。