感情表現のためのロボットに内蔵する跳躍機構の開発
1.背景と目的
コミュニケーションロボットは、人の孤独感やストレスの緩和に寄与することが明らかにされている。一方、ユーザとの長期的なインタラクションの難しさとして、既存のロボットの挙動による表現力に限りがある点が挙げられる。また、ロボット側からの能動的な接触動作は人の心理状態や親密さに影響を与えることが期待されている。
例えば、ペットが自ら飼い主に飛びついて興味を惹き付けようとする躍動的な動作は、豊かな感情表現と捉えられる。コミュニケーションロボットにおいて、跳躍動作を活用した研究は行われておらず、ユーザのロボットに対する親和性や受容性といった影響は明らかにされていない。
そこで、跳躍機構を有するロボットによる新たな感情表現の手法を提案する。ここでは、ロボットの開発を見据えた跳躍機構の製作を行う。
2.手法
ロボットが表現力豊かな動作を提示することを目指し、高さが変更可能な跳躍機構を製作する。また、機構の条件を変化させて動作を評価する。
3.跳躍機構の開発
サーボモータ(SG90-HV)、引張コイルばね、糸を用いて、組み替えが容易なLEGOを使用して跳躍機構を製作した。モータの制御にはArduino Unoを使用した。
高さ変更可能な機構として、先行研究を参考にしたクラッチ機構を製作した(図1a)。モータを正転させると糸を巻き取ってばねのエネルギーを蓄え(図1b)、反転させると歯車同士のかみ合わせが外れてエネルギーを一気に解放する仕組みである(図1c)。正転と反転を切り替えるタイミングを制御することにより、任意に跳躍の高さを変えることができる。歯車同士の分離時の回転方向による摩擦を考慮し、4枚の平歯車を組み合わせて実現した。



4.実験
4.1 方法
製作した跳躍機構を用いて、以下の3つの条件を変化させて跳躍可能な最大の高さを評価した。
- ひし形の骨組みの長さ
- 引張コイルばねのばね定数と本数
- 素材の種類
4.2 結果と考察
各骨組みの長さを1.6 cm長くすると、ばねの伸び量が1.5 cm増加し、跳躍の高さは約5 cmから約15 cmに向上した。ばね定数の異なるばねを様々に付け替えたところ、跳躍の高さは約20 cmとなった。ばねの代わりに輪ゴムを取り付けた場合、輪ゴムはフックの法則に従わず伸ばし始めに必要な力が大きいという特性があるため、不安定な挙動を示しながら約23 cm跳躍した。
ロボットの開発において、骨組みの長さの許容範囲を検討し、歯車の取り付け部分の歪みを減らして正常な挙動を示すように改善する必要がある。2本のばねを並列に取り付けた場合は動作しなかったため、ばねや素材の種類はモータのトルクの制限下で適切に選定すべきであると考えられる。
5.まとめ
クラッチ機構による高さ変更可能な跳躍機構を製作し、機構の条件を変化させたときの最大の高さを評価した。細かな高さ変更の評価には至らなかった。実験では、評価基準を明確にしなければならず、ばね定数を測定するなどの必要があった。今後は、跳躍の動作原理を見直し、構造の簡素化と軽量化を目指す。そして、ロボット本体を開発し、インタラクションにおける跳躍を活用した感情表現や能動的な接触動作がユーザに与える影響を検証したい。