筑波大学
田中文英研究室

JA

2021-kawahara

メールの編集過程情報を受け手に伝える通知システムの開発

1. 背景と目的

昨今、SNSやメールなどのテキストメッセージングがコミュニケーションの場として主流になってきている。これらメールなどのComputer Mediated Communication(CMC)と対面によるコミュニケーションとの違いの一つに、コミュニケーションを取り始める前の情報の有無がある。対面でのコミュニケーションでは、コミュニケーションを取り始める前の表情や仕草などの振る舞いが、その後のコミュニケーションでの振る舞いに影響を与える。その一方で、メールなどの CMC では、コミュニケーションを取り始める前の情報がほとんど存在しない。

2. 目的

メールにおけるコミュニケーションを取り始める前の情報である編集過程情報を通知により本文を読む前に受け手に与えることで、そのコミュニケーションに対する気構えに影響を与えることのできるシステムを考えること


3. 手法

メールを作成しているときの送り手の情報を「編集過程情報」と表した。
具体的には
・編集時間
・単位文字時間
・書き直し率
以上の3つを編集過程情報として、取得し提示した。

・編集時間
 メールを作成し始めてから、作成し終えるまでにかかった時間のこと。
 この値が大きいとよく考えられていると推測される。

・単位文字時間
 編集時間を本文に書かれている文字数で割った値のこと。一文字あたりにかけた時間。
 この値が大きいと、一文字にかける時間が長いので、よく考えられていると推測される。

・書き直し率
 書き直し率 = (本文の文字数) / (本文の文字数 + バックスペースを押した回数)
 上式で計算される値のこと。100%であれば何も書き直していない、50%であれば本文の文字数分書き直したという目安になる。
 この値が小さいと、より書き直したことになりよく考えられていると推測される。
 
この編集過程情報を取得した後、メールの件名の末尾に追加することで、通知段階で受け手に提示することが出来る。

4. 開発

HTMLとJavaScriptを用いてプログラムを作成し、レンタルサーバにアップロードすることで、使用できるようにした。
図1のトップページ中央の「Mail」というリンクをクリックすると図2のメール作成画面に遷移する。遷移が完了したときから編集時間のカウントが始まる。このメール作成画面で件名と本文を入力した後、画面中断の「Gmail」というボタンをクリックすると、図3のようにGmailが先ほど入力した件名と本文が入力された状態で立ち上がる。この時、件名の末尾に取得した編集過程情報が書き込まれている。その後、宛先を入力し、送信ボタンを押すと、実際にメールを送信することが出来る。

図1 トップページ
図2 メール作成画面図
3 メール送信画面

5. 結果

6人中4人のメールを読む順番に影響を与えた。また、影響を与えられた4人全員が編集時間を重要視した結果になった。(編集時間のみを重要視した 2人。編集時間と単位文字時間を重要視した 1人。編集時間と書き直し率を重要視した 1人。)コメントとして「編集時間は内容量とある程度比例しそうなので、場合によっては開く順番に影響があるかもしれない」や「編集時間を読むのにかかる時間として考えていた」などをもらった。これから編集時間は内容量の推測に有効である可能性があることが言える。

6. 考察

実験参加者の半数以上のメールを読む順番に影響を与えることは出来たが、読みやすいメールを判断するのに編集過程情報が有効であっただけで、本来の狙いであった「受け手の意識を送り手に向けることでメールを開く時の気構えに影響を与える」ということは達成できなかったと考察できた。その原因としては、取得した編集過程情報およびその伝え方が直感的でなく、分かりにくかったことが考えられる。また、メールを読む順番がメールを開く時の気構えとそれほどの関係がない可能性も考えられる。

7. まとめ

研究のテーマ(目的や背景など)を考えることの難しさや重要性を感じました。また、狙った結果を得ることの難しさを感じました。この経験をこれからの研究に是非活かしていきたいと思います。