筑波大学
田中文英研究室

JA

2021-adachi

こすりつけ動作を行うエンターテインメントロボットの開発

1. 研究背景

1.1 背景・目的

 近年,学生や労働従事者のストレス増加が深刻化しており,ストレスを抑制するための研究が注目を集めている.ストレス低減に関する研究としてこれまでに,動物との接触によりストレスの緩和を示したものがある.また,ぬいぐるみやクッションを抱擁することで不安感や緊張感を低減できたという研究成果が報告されている.この2つの事例から,抱擁時に生物らしい動きが加わることで,より高いストレス軽減効果が得られると考えられる.そこで,本研究ではストレスを緩和するための「抱きかかえられた状態で接触行動を行うロボット」を開発することを目的とした.ここでは,動物特有の接触行動である「こすりつけ行動」と呼ばれる動作に着目した.

1.2 こすりつけ行動について

 こすりつけ行動は猫や犬が人に甘えたり,マーキングとして自分の匂いを対象物に付与したりする際に見られる接触行動である.

2. 製作

2.1 ロボットの概要

 こすりつけの動きを再現するにあたって,Fig. 1のように①体を押し付ける動きと,②頭部を振る動き,すなわち並進と回転の2種類の運動が必要だと考えた.

Fig. 1 こすりつけ動作の再現に必要な動き

 ここではFig. 2に示す,スチュワートプラットフォームと呼ばれる機構に着目した.この機構ではベースとプラットフォームを支える6本の脚を適切に制御することで,並進3自由度と回転3自由度の最大6自由度の動作を実現できる.本来,プラットフォームを支える脚には剛体のフレームが用いられるが,本研究ではこすりつけ時の耐久性と柔軟性を得るために,糸とバネを使用している.また,脚を駆動させるためのアクチュエータには,プラットフォームを動かすための十分なトルクを持つことからサーボモータMG996Rを使用した.さらに,視覚的な生物感を与えるためにロボットにフェイクファーを被せた.製作したロボットの外観をFig. 3に示す.

Fig. 2 Stewart Platform
Fig. 3 ロボット内部構造(左) ロボットの外観(右)

2.2 制御

  スチュワートプラットフォームの制御にあたり,ベースの中心点を原点として,原点から

までの位置をそれぞれベクトルで表した.各座標点を用いて制御角との位置関係を表す式を立て,逆運動学によりプラットフォーム位置における制御角を計算した.

2.3 ロボットの回路構成

 ロボットの回路構成をFig. 4に示す.マイコンから供給される電源では電力が不足するため,マイコン駆動用とサーボモータ駆動用にそれぞれ5 V / 1 A出力のモバイルバッテリを使用している.マイコンにはArduino nano を使用した.

Fig. 4 ロボットの回路構成図

3. 課題

 今回開発したロボットには,糸を用いた影響でプラットフォームを動かすための力を十分に伝達できず,X,Y方向の並進運動およびZ軸まわりの回転運動ができないという問題点があった.また,サーボモータの配置の問題で抱きかかえた際に駆動箇所に接触してしまうという問題がみられた.この問題は,サーボホーンが内側に向くように配置を変更することで改善可能であると思われる.

4. 頂いた意見

 製作したロボットに対する印象を研究室内メンバーに伺ったところ,以下の意見を頂いた.

5. まとめ

 こすりつけ行動を行うことを目的として,糸を用いたスチュワートプラットフォームロボットを製作した.こすりつけ動作の実現に関して様々な機構の問題点が発覚した.このロボットを用いて実験を行うには,サーボの向きを変更する,機構の周囲をクッション素材で覆うなど,接触しやすさを考慮した設計へと変更する必要がある.