筑波大学
田中文英研究室

JA

2019-kubota

痛みに対する不安を緩和する装着型デバイスの開発

1. 研究背景と目的

慢性疼痛とは身体の機能的障害が治癒したにも関わらず、慢性的かつ長期的に続く痛みである。慢性痛の発症者は動作時に発生する痛みへの不安・恐怖によって、日常生活における身体的活動量が低下し、QOLが低下してしまうという問題がある。しかし、医学分野において、一般的な疼痛に対する治療法ではこの慢性疼痛の症状を完治することは困難である。これは、慢性疼痛の繰り返し発生する痛みに対する不安・恐怖によって、痛みを感じる脳の神経結合が変化することが原因であると知られている。また、現時点では疼痛に対して心理面にアプローチし、痛みの軽減を図る装着型デバイスを開発する先行研究はない。

そこで私は、痛みに対する不安・恐怖を装着型デバイスによって軽減することで、痛みの程度を低下させることが可能であると仮説を立て、装着型デバイスによる痛みの緩和に着目した。

本研究では、慢性疼痛を発症者において、動作時の痛みに対する不安・恐怖を軽減する要素(温度、触感、外観、動き等)の選定と不安を軽減する機能を搭載した装着型デバイスの開発を目指す。

2. 手法

不安・恐怖を軽減する機能を搭載した装着型デバイスを装着し、痛みに対する不安が軽減されたのかをアンケートで収集し、検証を行った。

3. 装着型デバイスの開発

本実験で開発したデバイス(図1)の説明を行う。装置の制御にはArduino R3を用いパソコン上でのコマンド入力で制御した。デバイスの動作にはサーボモーター・熱発生にはペルチェ素子を用いた。ペルチェ素子は電源装置から電圧を供給し、手動で制御した。また接触部(腹側・背側部)には人肌ゲルを貼り付け触った時の感触を良くし、心地よさの再現を試みた。

コマンドを入力すると、サーボモーターが作動しデバイスの腕が、装着箇所を抱きしめるような動作をする。これによって、痛みが発生し得る箇所が保護されているような感覚を再現し、痛みに対する不安の緩和を試みた。

図1. 装置の全体像
4.実験

デバイスを装着した状態で痛みを発生させる。その後、痛みの感じ方および温度、見た目などに関しての感じ方をアンケートで回答してもらった。実験の様子を図2に示す。デバイスは右膝の上に服の上から着用し、デバイス前方に痛み発生装置を取り付けた。全ての実験者においてデバイスの動作を行った後に、痛みを発生させた。その後デバイスを外し、痛みの感じ方をアンケートで回答してもらった。この実験の特徴として、痛み発生のトリガーは自分で引いてもらうことで、自分の動作によって痛みが発生する状況を作った。

*痛み発生装置は輪ゴムを用いて製作した。

図2. 実験の様子
5. 結果と考察

痛み

痛みが発生した後の感じ方には差が見られたが、痛みの大きさに関しては大きな差はなかった。

温度

服の厚さや個人の温度の感受性で結果は異なった。個人によって心地よく感じる温度は大きく異なることが分かった。

その他

装置が不安定、ゲルの下の硬い素材を感じた、拘束感が強かったことから装置の改善の必要性を示唆している。

以上から本実験では、痛みに対する不安が緩和できるか判断することはできなかった

6. まとめ・感想

本実験では、装置の設計要件の考察から装置開発、評価までを行った。温度の感じ方は個人間で大きな差があることがわかったので、実験から得られたデータをもとに装置の改良を行う。また他に不安を緩和する要素が存在するかを調査する。 研究室に配属され、2ヶ月間で研究テーマの決定から装置開発を行い、実験・評価と一連の流れを経験し多くのことを学ぶことができた。この経験を卒業研究に活かしていきたい。